こういう離婚事件がありました。
いわゆる熟年離婚で、夫から離婚を求められた妻からのご依頼でした。
長年の夫婦関係のもと、夫婦には、それなりの額の預金や不動産といった資産があります。
最近は夫婦が同程度の収入を得ている、あるいは妻の方が多いという家庭も珍しくありません。ですが、現時点で50代、60代といった熟年離婚となると、まだまだ妻のほうが収入が少なかったというのが一般的な世代です。妻は専業主婦やパートをして夫が働くのを支える、という具合ですね。
離婚をするときは、夫婦のもとで形成された資産(親から相続した資産など「特有財産」と呼ばれるものは除きます。)について、銀行口座や不動産の名義人がどちらであるかにかかわらず、全部を合算して2分の1で分けるという原則的なルールがあります。「2分の1ルール」と呼ばれています。
これは、たとえ妻が専業主婦やパートであって夫より収入が少なかったとしても、夫婦が婚姻中に取得した財産は夫婦が協力して形成したものであり、協力の程度は夫婦平等と考える、ということです。当然のことだと私も思います。
ちなみに、この2分の1ルールは裁判実務上は定着しているものですが、これまで法律(民法768条3項)の明文にはありませんでした。令和6年の法改正により、この2分の1ルールが法律に記載されることになりました。
このように2分の1ルールは裁判実務上は定着しているのですが、原則である以上、例外もあります。
過去の裁判例をみると、例えば、夫が多大な浪費をしていて夫に2分の1を与えることが不公平と思われる場合、夫が特別な才能や能力で多額の収入を得ている場合、長く別居していて妻が夫に協力していたとは認められない場合などで、2分の1ルールが修正されることがあります(その結果、妻または夫の取り分が減ります)。
そのため、財産を多く取られてしまう側(多くのケースでは夫側)から時々、2分の1ルールを適用するのは不当だ、妻は夫婦の財産形成に全く協力していなかった、という主張が出されることがあります。
今回のケースも、長く家庭内別居や単身赴任が続いていたため、そういった事情を根拠に、同様の主張をされました。
2分の1ルールが修正されることは少なく、夫の主張は通りにくい(裁判官が認めないだろう)と予想されました。
ただ、確かに、長く家庭内別居や単身赴任が続いており、実際に過去の裁判例でもそういった事情を拾い上げて2分の1ルールが修正されたケースがありますので、決して気を抜くことはできませんでした。
熟年離婚ですので、それなりの額の預金や不動産といった資産があり、もし2分の1ルールが修正されると妻の取り分も大きな額が減ってしまいます。また、これから働ける年齢ぎりぎりまで働いても老後資金を作り上げることには困難が伴います。
そこで、こちら(妻)の反論には多くの労力を割き、万が一にも2分の1ルールが修正されることがないように慎重を期しました。
具体的には、夫婦の歴史を丹念に掘り起こして聴き取り、妻が主婦としてどのようにして家庭に貢献してきたのかを明らかにする書面を作成したり、妻がパートとして働き始めたのちのパート収入がどのようにして家庭のために使われていたのかを明らかにしたり、などです。もちろん、夫は反論してきますから、それに対する再反論もおこない、そういう反論・再反論を何度もおこないました。
夫は、2分の1ルールを適用するのは不当だ、妻は夫婦の財産形成に全く協力していなかった、という主張に最後まで固執し、調停では解決できず、離婚訴訟にまで至りました。
調停開始から数えると数年単位の時間がかかってしまいましたが、最後はこちら(妻)の主張がとおり、無事に2分の1ルールに従って、財産分与がおこなわれました。
お客様も大変喜んでくださり、本当に良かったです。
最後に
2分の1ルールは裁判実務上は定着しており、2分の1ルールが修正されることは少ないです。
そのため、夫側から2分の1ルールを修正しろという主張が出ることも多くはありません(最初は主張しても、さほど時間をおかずに諦めます)。
しかし、前述のとおり例外もあり、もし夫側からそういう主張が出され、かつ、その主張に根拠があるようなケースでは、決して気を抜けません。
当事務所では、2分の1ルールは裁判実務上は定着しているからといって安心して手を抜くようなことはしません。夫側の主張に根拠があるようなケースでは徹底的に戦います。
日本橋きぼう法律事務所 弁護士 東城輝夫
お問い合わせは、電話、メール、またはお問い合わせフォームからお願いいたします。
【離婚】【労働問題】は初回1時間無料で法律相談をおこなっています。